子ども達と共に育て 「紅枝垂れ八重桜」(べにしだれやえざくら)

2003年3月


平成9年4月の日曜日。どうしても桜が見たくて、お父さん先生と朝早く電車で上野公園へ出かけた。早朝の桜は、露をふくんでしっとりと美しい。その中で特に際だって居たのが、東照宮の庭に咲いていた、若い樹の瑞々しい桜だった。他の花より紅鮮やかで、まわり迄、明るく華やかにしていた。そのはんなりと匂い立つような美しさに見惚れて立ちつくし、眺めつづけた私は、この桜がどうしても欲しくなり「園庭が整ったら、記念樹に植えましょうね」と話しながら帰った。

平成14年6月1日新園舎に子ども達が入り、同時に30周年記念を迎えた。お祝いに来て下さった同期生からは、柚子の樹と「譲り葉」の柏の樹を戴いた。卒園する30期生から「卒園記念に何か」と聞かれ、ためらわず「桜の樹を」とお願いした。

平成15年1月5日 上野公園東照宮へ、めざす桜の樹の名前を聞きに出かけたが、誰も知らないと言うばかり。途方に暮れていると「御不調で御休みだが、宮司さんなら」と名前を尋ねてきてくれた人が居た。「紅枝垂れ桜(べにしだれざくら)」と言い、京都の平安神宮から贈られた由緒ある樹だと言う。

「枝が真っ直ぐ立って、しだれていないのに枝垂れ桜ってありますか」近所の園芸店に訪ねたが「??」。平安神宮に電話をしたら「たしかに上げたが、そこらに出回っていない。それは、さくら名人の籐衛門はんが造られはったものどす。電話?しりまへんな」と、京都弁でそっけない。それで、ますます意欲を沸かした私は、桜を訪ねて、京都へ行かねばならぬか、と覚悟を決めて「籐衛門」と名の付く4件の造園さん最後の1人に、3回目の電話をした。

「30周年記念樹に是非とも植えたい、卒園記念樹です。子ども達の為に植えさせて」と頼み込む私に「まだ名前も本に載ってなくて「紅枝垂れ八重桜」と言う新品種ですわ。ま、送らせて貰いましょ」と言う答えが返った。「ほんとですか?有難うございます」電話の前で何度も最敬礼の私。1ヶ月後、幻の新品種「紅枝垂れ八重桜」が、丁寧な、植え方解説書付きの宅急便で届けられた。

東照宮の桜とは似ても似つかない桜に変身したが、思いがけず「紅枝垂れ八重桜」が手に入った。「大切に育てるから、お花が咲いたら観に来てね」と話しながら、皆に見守られる中、卒園して行く子たちと植樹をした。ふところに深く包む想いで育てた6年間と、6年間続いた桜への思いとが重なりあって、植樹は終わった。

「どんな花が咲くのかな。どんな子ども達に育っていくのかな」と今から楽しみ。「認められ愛されて育った事を宝物にして、自信を持って生きて行って欲しい」。卒園の子ども達にも、進級の子ども達にも、尽きない私の想いである。「どんな時にも、幸せに生きていこうね」。

 

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